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このコラムはウロコ人=環境・社会・地域のことを考えて行動する人をご紹介し、エコでエシカルな暮らしのヒントを一緒に考えます。

みなさん、一度は聞いたことがある言葉、”食品ロス”。
食品ロスとはまだ食べられるにもかかわらず、なんらかの理由で捨てられる食品のことをいいます。
現在、食品ロス問題は世界的に課題とされており、日本でも自治体や企業など様々な団体が解決に向けて取り組んでいます。

食品ロスは私たちの手元に届くまでの様々なプロセスで発生しています。今回の記事では製造・販売・調理のプロ3名からお話を伺いました。消費者からは見えない食品ロスの課題を知り、今日から私たちができることのヒントを一緒に考えましょう。

聞き手:城戸和美(暮らしの目からウロコ・わくわくクリエイター)

今回、お話を聞いた3名のご紹介

酒うらら
道前理緒さん(以下、うららさん)

岡山県西粟倉村にて、主に日本酒を販売している酒屋・酒うららを運営。
お酒を紹介する出張イベントも開催されています。酒蔵の奥さんから熟成した酒かすがおいしいのに捨てられていることを聞き、現在は酒かすの店頭販売や卸売も行われています。

ヘルシーライフプロデューサー
酒井絵利奈さん(以下、エリィさん)

阪神間にて「地球にも人にもやさしい、おいしいを。」をコンセプトにフード撮影アシスタント、カフェで腸活ランチ、出張料理のお仕事をされています。フードコーディネータの資格も取得。

ablabo.
蔦木由佳さん(以下、ゆかさん)

岡山県西粟倉村で、ナタネやゴマなど植物のタネから油を搾り、食用のオイルとして販売するablabo.を運営されています。原材料はできる限り近隣で栽培された無農薬のものを使用しており、薬や添加物を使わない昔ながらの製法で油づくりをされています。

和美 今回は食に関わる3名の方にお越しいただき、食品ロス問題を中心にお話を伺っていきます。まずはみなさんが、どのようなきっかけで今のお仕事を始められたのか教えて下さい。

ゆかさん 私は会社員時代に、旅行に行った小豆島で搾りたてのオリーブオイルを食べ、そのおいしさに感動して、油に関わる仕事がしたい!と思いました。油のことが気になって色々調べていたら、たまたま近くに70年以上一人で油搾りをしているおじいさんがいたので、その方に搾り方を教えてもらって油屋になったのがきっかけです。

ゆかさんの創業エピソードはこちらの記事でもご紹介しています↓↓

ゆかさんの記事はこちら(準備中)

うららさん 私はお酒が好きで酒蔵に足を運ぶようになったことがきっかけですね。お酒のことだけでなく蔵人の想いを聞く中で「もっといろんな人に日本酒を飲んでほしい!」と思い、酒屋になりました。
蔵ってお酒のイメージが強いと思うけど、実は麹のようなお酒以外の商品も売ってるんだよね。だから、お酒が苦手な人でも蔵についてもっと知ってほしいと思っています。

エリィさん 私は体調を崩したことがきっかけです。食べることは大好きでしたが料理を作ることは苦手だったんです(笑)でも、体調が悪くなり鬱っぽくなった時に「このままじゃだめだ。なにかしよう!」と頭に浮かんだのが大好きだった”食べること”でした。そこから食について勉強をしていくと、地球に良い行動は人にも良いことに気づいたんです。例えば、洗い物を減らして排水をできるだけ綺麗にすることです。水もめぐりめぐって人間に返ってきますからね。地球に良い水は人間にもいいんだなって。
これらの気づきから「地球にも人にもやさしい、おいしいを。」をコンセプトに人々の健康寿命を伸ばしていきたいと思って活動しています。

酒かすは食品ロス?酒かすの現状とは…

和美 今回、ウロコ定期便9月号でコミュニティ会員向けにお送りするキットは酒かすをひと夏熟成させた、”熟成酒かす”です。うららさん、熟成酒かすとはどのようなものですか?

うららさん 熟成酒かすは新かす(絞りたての酒かす)を半年から1年ほど発酵させた酒かすの一種です。味噌のような色をしており市販の白い酒かすに比べると味も香りも違います。コクがあり料理に少し加えるだけで味に深みがでます。本当においしいですよ!

和美 私もうららさんから熟成酒かすを聞いて試したんですが、料理が一気においしくなるのでびっくりしました!今回食品ロス問題として酒かすを取り上げた理由は、酒かすが廃棄同然の扱いをされているとお伺いしたからです。現状を教えて下さい。

うららさん そうですね。特に中・小規模の酒蔵の酒かすは本来の価値を活かせていないと感じます。酒かすは日本酒を製造する上で作られた副産物です。そのため、小さな酒蔵は酒かすのために人員はさけず、酒かすの廃棄料を払うよりマシという考えで、かなり安い価格で肥料や飼料として処理しています。大手メーカーは人員に余裕があるため捨てていないようですが…。
多くの酒かすは本来の価値を生かし切れておらず、まさに「もったいない」という状態なんです。

日本の社会風土が作り出す、酒かすの直面する三重苦。

(写真解説)
仕込み中の日本酒の出来を確認する蔵人。昔ながらの、木桶で仕込みをされています。

和美 なるほど、酒かす自体に価値はあるのに、そこに手が回らない実状があるんですね。

うららさん また、熟成酒かすが小売店に並ばない理由は3つあります。『異物が入ってしまう、量が少ない、商品に説明がいる』という点です。
昔ながらの方法で酒を作っている酒蔵は木の道具を使います。そうすると、酒かすの中にもどうしても木くずが入ってしまうんです。アルコール度数が高いため、殺菌されて健康被害はないのですが、日本は食べ物の異物混入にはかなり厳しい社会ですから販売はできません。結果、大きな企業が使用している密閉されたタンクで作られた酒かすしか市場には出回らないんです。曲がった野菜が流通に乗らないように、きれいなものしか売らない社会風土が酒かすが捨てられる原因を作っているんでしょうね。

和美 なるほど。消費者の価値観も食品ロスを生んでいる要因と感じますね。その他、量が少ないことや酒かすへの説明がいるという点についても教えてください。

うららさん 小さな酒蔵だと物流にのせるほど酒かすの量が作れません。ある程度の量がないと取引してくれるお店は限られますよね。
また、「酒かす=白色」というイメージを持っていませんか。でも、熟成酒かすは味噌のような色で香りもしっかり付いています。きちんと販売側が説明しないと熟成酒かすは消費者に買ってもらえないんですよね。
これらが原因で酒かす、特に熟成酒かすは日の目を見ません。

和美 酒かすが食べられるのに捨てられている実状を蔵人はどのように思っているのでしょう。

うららさん 蔵人たちは酒かすの現状にあまり興味はなさそうです(笑)
一方で、酒かすのおいしさを知っている酒蔵の女性たちは酒かすに真剣に向き合っているイメージがあります。昔は酒かすを販売することで蔵人のお給料が出せたとか。そんな酒かすが低価格で売買されている現状に蔵の女性たちが「なんとかしないと!」と動き始めている感じがします。
私も酒蔵の奥さんからこれらの話を聞き、少しでも応援できればと酒かすの量り売りを始めました。

エリィさん 私は初めて熟成酒かすを食べましたが、本当においしかったです!使用する前まで、酒かすは日が経つと香りが消えていくイメージでした。熟成した酒かすは風味や旨味が残っていて、酒かすへの概念が変わりました!そんな酒かすがゴミ同然って、悲しいですね。

「もったいない」が食品ロスをうむ?!

和美 酒かすのように魅力が伝わらず、損失となっている食品だけでなく、現在、日本では年間600万トンもの食品ロスがあるとされています。食に携わるお仕事をされているみなさんは、具体的にどんな原因や課題があると感じていますか?

ゆかさん 私が考える課題は「もったいない」がうむ食品ロスですね。

和美 「もったいない」が食品ロスを生む?!「もったいない」は食品ロスを防ぐキーワードだと思っていたんですが、興味深いですね!詳しく聞かせてください!

ゆかさん うちの油は決して値段が安くないので、よくお客さんから「もったいないから使えない」と言われるんです。市販の油は味がない上に腐らないため、劣化していることをほとんど感じません。でも、うちの油は味も、香りもあるため、時間が経てばこれらの風味は落ちていきます。もったいないからと使わずにいると、せっかくの風味もなくなる上に酸化して使えなくなってしまう。結果、食品ロスになる、もったいない精神がロスをうんでいる矛盾を感じています。

これは大量生産ではない食品全般に言えると思っています。もったいなくて使い切れずに捨ててしまうのが一番もったいないと伝えるけど、なかなか使えない人が多い。あと、買って満足してしまい捨てるケースも多いですね。それをどうにかしたいなぁと思っています。

うららさん どう油を使ったら良いか知らない人が多いんじゃないのかな。

和美 私、そのタイプです!まさに、どう使ったらいいんだろうって思いました(笑)

ゆかさん 使い方を伝えるにはどういうアドバイスをしたらいいのかな…?

うららさん 今、使ってる油を捨てましょうっていうのは?(笑)

全員 (笑)

ゆかさん 今使っている油を捨てたら食品ロスになるじゃないですか!(笑)でも、使っている油を使い切ったら無駄に買わないでねっていうのはありかもしれないなぁ。

うららさん 一度の料理で使用する調味料の量ってそんなに高くないんだよね。高い調味料を買うよりご褒美で自分に買うお菓子の方がよっぽど高くついてる。

和美 私は調味料って店頭に並んでいる価格で判断していたから、一回の使用量を考えたことがなかったです。油もできるだけ種類を少なくすると、1つの使用頻度が上がって、結果的に食品ロスがなくなりそう!

冷蔵庫にねむっている食品を救う術は良い調味料をきちんと揃えること

和美 今のお話で料理がもっと楽しくなれば食品ロスも結果的に減ると感じたのですが、この流れで料理が苦手な私から3人に料理について聞いてみたい!みなさんは料理に対してどんな時にわくわくするんですか?

エリィさん 私は食べる人や食材、作り手さんのことをイメージしてみると楽しくなりますね。あと、当たり前を変えることでわくわくが作られる気がします。例えば、肉じゃがの豚肉を鶏肉に変えてみるとか。私は体や健康のためを想像すると、楽しみながら当たり前を変えていけます。

ゆかさん 私はエリィさんと真逆で、自分のために作ることが料理を楽しむポイントです。昔、カフェで仕事をしていたとき、「私は人のために料理を作るより自分がおいしいものを追求する方が楽しいんだ」と気付きました。エリィさんと同じなのは食材を選んだ理由や作った人のことを考えることですね。おいしい食材に出会ったとき、「なんでこんなにおいしいんだろう?」と考えるのは大好きです。

うららさん 同じ「人のため」といっても飲食店のように不特定多数に作る料理と特定の誰かのために作る料理では気持ちの入れ方も違いそうですよね。
私は料理の味を分解して組み合わせて作るのが好きですね。実験のようで楽しい。例えば、豆板醤を使いたいけど、自宅にない場合、豆板醤は味噌と唐辛子だなと分解して、調味料を作る。思い通りの味になった時は「よっしゃ!」となる。おいしい調味料を使うと想像力が膨らむから、それもまた楽しい。

ゆかさん そう思うと、基礎的な調味料を揃えることが食品ロスを減らすことにつながりますね。使い切れない調味料やドレッシングって冷蔵庫でよく眠ってますが、基本的でおいしい調味料を持てば無駄に調味料を買わずにすむと思うんです。

エリィさん 私もわざわざ調味料を買わないと作れないものはお客さんに提供しません。カフェで提供する料理も、家にある調味料や食材で料理を作れるようにしています。

和美 すごく腑に落ちています!特に豆板醤の話は目からウロコ(笑)。料理への苦手意識はレシピ通りに作らないといけない、書かれている調味料を作らないといけないと思っているところから来ていることに気づきました。シンプルに料理を考えると無駄な買い物も減り、我が家の食品ロスが減りそう!

食品ロスを防ぐための食のプロおすすめ料理!

和美 私の料理好きの人のイメージは、余った食材でもおいしくなる鉄板レシピがあるイメージです。「とりあえず、食材余ったらこれにしとけばいいよ!」はありますか?

エリィさん 私はきんぴらやマリネがおすすめです。きんぴらは酒、醤油、みりん。マリネはお酢に塩、もしくは醤油であえるだけで簡単にできます。

うららさん 甘酢炒めかな。お肉と野菜、お酢、みりん、味噌を入れて、こってりめに仕上げるとおいしい。

ゆかさん うちは味噌汁かカレーですね。あとは、アヒージョ!アヒージョは健康食品として注目されているオメガ3(亜麻仁油、エゴマ油など)以外の油なら家庭にある油で簡単にできるので、わざわざ油を買わなくても大丈夫!アヒージョで余った油をさらにパスタにあえるのもおすすめ。

和美 余り物から作ったとは思えない料理になりそう!余り物から料理を作ることで食品ロスも減って、料理も楽しくなりそうです!

作り手を想って買い物をすることも、ひとつのアクションになる

和美 ここまで食のプロならではのおもしろい話を聞かせてもらいました。みなさんが食品ロスに関して「こんな未来になったらいいな」と思う社会の姿を聞かせてください

うららさん 私は、品切れのある店が選ばれる世の中になってほしいです。現在の小売店は消費者のために用意しすぎだと感じるんですよね。スーパーにはすごい量の商品や在庫が揃ってるけど、品切れがあってもいいと思うし、私は品切れのある店で買いたい。消費者は、販売する物は選べなくても買う場所は選べますからね。『捨てないパン屋』という書籍が売れていると聞きましたが、そのような理念や考え方に共感する人が増えている証拠だと思うんですよね。

エリィさん 私は日本人の健康や安心安全への意識、安全の基準が高まって、何を選んでも安心な社会になることが理想ですね。今は健康志向の人とそうじゃない人の差が激しく、そのニーズを満たすために数えきれない種類の商品がスーパーにあります。もっと選択肢が少なくなり、何を選んでも、地球にも人にもやさしい世の中になってほしいです。

和美 体に良いものを扱っているお店は数量限定で商品を置いているイメージがあります。私たちが健康意識を持つことで、食品ロスも減るかもしれませんね。

ゆかさん 私は寛容な社会になってほしいと思っています。日本の食品製造業は寛容とは真逆の方向を向いていて、体に影響はなくとも、生産過程で入ってしまう異物は絶対許されません。酒かす同様、ごま油の搾りかすも実はすごくおいしいんです。でも、他の種類の油かすが混ざってしまうこともあるから、市場には出せず、現在は肥料として畑に還しています。もっとおいしいものを届けられる、生産者の説明を聞き入れてもらえる社会になってほしいです。

うららさん 作り手と買い手がお互いに想いあえる距離にもなってほしいですよね。作り手と買い手に距離があると工業製品のような食材ができると感じます。「自分の親戚にその食材は売らないよね?」と聞きたくなるような食材を作ってしまう生産者を見かけることもありますしね。そして「消費者も誰が作っているのか」を想像してほしい。形が揃っていないと本当におかしいの?消費者がきれいなものを選ぶことで、生産者が工業的な商品を作らざるをえない部分もあると思います。作り手と買い手の距離が近づくことで、選択肢は少ないけど安心な買い物ができる。そんな世の中になってほしいと思います。

和美 誰かのための料理はモチベーションが違うように、距離が近づくことで食材一つ一つが丁寧に作られ、大切に使われていきそうですね。
最後にみなさんが望んでいる未来に向けて、私たち一個人にできることを教えてください!

ゆかさん 何かを買うときに誰がどこで作っているのかを確認することです。商品のすべてのヒストリーを追うのは大変ですが、まずは誰がどこでを作っているのかを知っていくと商品のヒストリーが想像できるようになります。そうすると食材に愛着を持て、捨てることがなくなると思います。

エリィさん 私は自分が何を食べているのかを理解して食べてほしい。食べたものは全て自分の体に吸収されます。知らないものが入っていたら調べる・買わない、という行動もしてほしいです。

うららさん 私は家の近くの八百屋や酒屋などの専門店を訪ねてみてほしい。お店の人から、食材のことを直接教えてもらえるから、自分で勉強するより学びが深まるし、楽しく食材を買えるのでおすすめです。地域によっては専門店が少ないところもありますが、まずは調べてみてください。

ゆかさん、うららさん、エリィさん、ありがとうございました!私はみなさんの意見を聞くまでは「食品ロス削減には賞味期限が近いものを選ぼう!」「たくさん買いすぎず、必要な分だけ買おう」など、よく耳にする意見が出ると思っていました。でも、蓋を開けると自分の食品ロスへの考え方が目先の行動に囚われていたことに気付きました。食材の奥にある”人”への想いやりや配慮を持つこと、普段の料理をちょっと目線を変えて楽しんでみることで、食品ロスは無理に減らそうとしなくても、自然と減っていくものなんだと感じました。暮らしの目からウロコとして、食への想いやりで社会を変えいきたいと感じるインタビューでした。

3人の皆さま、本当にありがとうございました!

聞き手:城戸和美
暮らしの目からウロコ・わくわくクリエイター。神戸市北区で『住みびらきのお家 ケレケレ』を運営している。大学在学中のフィリピン留学をきっかけに環境問題に関心を持ち、現在は人々の暮らしを環境に優しいものに変化させたいと活動している。

暮らしの目からウロコではエコでエシカルな暮らしを楽しむコミュニティやイベントを運営しています。
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