日常の中に自然との関わりを。地域と自然を愛する気持ちを生み出すエッセンシャルオイル【Licca・長壁総一郎さん、早也花さん】
このコラムはウロコ人=環境・社会・地域のことを考えて行動する人をご紹介し、エコでエシカルな暮らしのヒントを一緒に考えます。
日本の森林面積の割合をご存知でしょうか?
日本の森林面積は国土の6割を占めています。森林が豊かな日本ですが、私たちの普段の暮らしに森林はあまり馴染みがないと感じられる方も多いかもしれません。森の所有者の高齢化や海外からの安価な木材輸入などが影響し、日本の森を守る林業に関わる人は減少しています。
そんな中、群馬県みなかみ町の間伐材を使ったエッセンシャルオイルで暮らしの中に自然を感じさせてくれる、Liccaの長壁総一郎さんと早也花さん。Liccaのおふたりから、なぜエッセンシャルオイルに取り組み始めたのか、日本の森林問題の現状や今日からできることを教えてもらいました。
聞き手:城戸和美(暮らしの目からウロコ・わくわくクリエイター)
記事制作:なかあづさ(暮らしの目からウロコ・共感ファシリテーター)
エッセンシャルオイルを通じて、環境問題を学び、楽しさや奥深さを感じてほしい
かずみ Liccaさんではどんな活動をしているのか教えて下さい。
総一郎さん 夫婦二人で群馬県みなかみ町にて森の間伐材からエッセンシャルオイルを作っています。エッセンシャルオイルやスプレー、リードフレグランスなどお部屋で使えるアイテムの販売に加えて、旅館や施設にてオリジナルフレグランスのプロデュースや、エッセンシャルオイルの委託蒸留も行っています。最近は「香育」と言って、地元の小学生に向けた授業も行っています。
かずみ 幅広く活動されているんですね!屋号の「Licca」にはどんな意味が込められていますか?
早也花さん 立つ香り、立香です。一般的に香りと聞くと、柔軟剤や香水のイメージがありますよね。それよりも優しく、気づいたら感じるやさしい香りを表現しています。北欧の言語で幸せの意味もあるそうです。さらに、みなかみ町の人から、雪の結晶を表す六花と言ってもらい、偶然にもいい意味が重なった名前になりました。自分たちがこだわっている国産・和精油という日本らしいものも、名前から感じてもらえたら嬉しいですね。
かずみ なぜエッセンシャルオイルの事業を始められたのでしょうか?
早也花さん 私は青年海外協力隊でラオスに行ったのですが、私が行った地域は、カフェもなく、スーパーもない、なにもない町でした。ですが、その町にある自然や空気は特別だと感じていたので、どうすればこの自然の良さを知ってもらえるのかと日々、考えていました。ラオスの生活の中で、私が楽しみだったことは、せっけんで洗濯したものの香りを嗅ぐことでした。その時、自分が香りが好きなんだと気づきました。香りを嗅ぐと呼吸も深まる。香りは植物や自然の恵みから取れるし、自然が人にとって価値あるものに変われば、日常生活で触れる人も増えるんじゃないかと考えました。
ラオスから帰国後、思いは消えなかったので、アロマの資格を勉強して、化粧品会社に入りました。その頃、夫に私の想いを話すと「やろうよ」と言ってくれたんです。自然を身近にしていくことに関しては、ラオスも日本にも同じ課題があります。日本は森林の面積が豊富だけど、所有者の高齢化でほったらかしのところも多いんです。間伐材でアロマ蒸留をすれば、日本の森林問題にも貢献できるし、自然の良さも伝わります。
ただ、いくら「自然は大切だよ〜」と言ってもなかなか響かないですよね。地球環境に対するやさしさは大切だけど、楽しさやワクワクがないと続かない。日本に限らず地球環境は何が問題なのかを商品で伝えていけたら、学びも、楽しさも、奥深さも感じられると思いました。
かずみ 総一郎さんは早也花さんの想いを聞いたとき、どう感じましたか?
総一郎さん 僕も国際協力に関心があり、人にとって、絶対的、普遍的な価値があるもの、つまり命に関わる仕事をしようと保健医療系の仕事していました。東ティモールやタイなどで活動をしていく中で、行政や企業で仕事をするしがらみを感じ、これからも自分がやりたい国際協力ができるのか不安に思っていました。妻から話を聞いたとき、衣食住という最低限のライフライン、そして医療・保険も大切だけど、それが揃っていても幸せとは言い切れない。じゃあ現代の人生の豊かさは何なのかと考えさせられた。間伐材とエッセンシャルオイルにやることが変わっても、間接的に人の健康、命に関われると思いました。
みなかみ町に入った瞬間に、「この町が好きになる」と感じた
かずみ おふたりとも、国際協力に関心があって、さらに出身は関西ですよね。しかし、Liccaを始めるために選んだ場所は群馬県みなかみ町でした。なぜみなかみ町だったのでしょうか?
総一郎さん 青年海外協力隊で新興国に行った事がある人は、日本はどこに住んでも天国のようなもの(笑)。自分たちがやりたいことに適切な場所、自分たちが好きな場所を探しました。静岡、京都北部、岡山、大分など、いくつか候補がある中で、そこで働いている人の魅力を見ていました。移住になるので、町役場で相談するのですが、役場の人の熱量もそれぞれ。例えば、移住に関する書類を送るスピードが早いと、行く前からテンションが上がりますよね。みなかみ町の町役場は、エッセンシャルオイルを作る事業がどうすれば軌道に乗るか、つながりを作ってくれて、地元の方が前向きに受け入れてくださったことが大きいです。
早也花さん みなかみに入った瞬間から「この街が好きになる」と感じました。谷川岳を見たときに、「こんなにきれいな自然の中で暮らしたい、事業をしたい!」と強く感じました。もちろん冬は寒く、雪も大変なんですが、春になるにつれて、森が芽吹いていく様子、気候の変化など四季を感じ取れることが素晴らしいですね。みなかみ町役場の方々も、自然を大切にしている考えを持っていらっしゃいます。
自然の恵みを知るだけでなく、目に見えないものの表現力を培う「香育」
かずみ さきほど、活動紹介の中で「香育」とおっしゃっていましたが、これはどんな活動なんですか?
総一郎さん 地元の小学校で山を知るきっかけを作る授業を行っています。例えば、蒸留体験をして香りがどうできているかを実験してもらったり、目に見えない森のめぐみをどう言葉で表現するのかを考えたりします。総合学習の中で目に見えないものを表現し、ロジカルに説明する体験では、子どもたちの発言が増えるようで、先生方も驚いています。香りの好みはあるけど正解・不正解はないこと、香りと思い出を結びつけ、小学校の6年間の思い出を香りで表現すること、天然香料と合成香料の違いなど伝えられることがたくさんあります。
かずみ 子どもたちやLiccaさんのワークショップに参加した人からはどんな声が聞かれますか?
早也花さん エッセンシャルオイルって木から取れるんだ!どうやって香りになっているの?と関心を持ってくれますね。スギ、ヒノキ、アブラチャンの蒸留体験では、生の木を切ってもらうところから始めます。葉っぱを切るだけで香りがすることに驚く人も多いです。モミがどんな木なのか知らなかった人もいます。針葉樹と広葉樹の違いも面白いですし、桜や梅でもエッセンシャルオイルを作れますか?と、香りから森・木に関心を持ってくださいます。木を蒸留すると、採れるエッセンシャルオイルの量は樹種にもよりますが3~5kgの原料に対して1mlあるかないか。なぜエッセンシャルオイルが高価なのかも知ってもらえます。林業をしている人が、木がエッセンシャルオイルになることを知らなかった!と言って、私たちのワークショップに来てくれたこともあるんですよ。
海と山はつながっている。森を手入れすることの大切さ
かずみ 日本の森林問題を詳しく知らない方も多いと思います。現状を教えて下さい。
総一郎さん 森を健康に保つには、手入れが必要です。間伐を定期的にしないと、陽の光が当たらず、木が健康に育たないし、実ができないので、動物たちの餌も豊富にならないんです。日本は高齢化している地域が多く、管理者が体力的に手入れできない森がほとんどです。合わせて、海外からの安価な木材が輸入され、日本の木材が買われなくなったことも林業を衰退させる原因になっています。木を植えても育たないし、育っても手入れできない。そして木材の価値が下がって売れないので林業に関わる人はどんどん減少しています。
かずみ 森の手入れが行われなくなると、日本の森はどうなってしまうのでしょうか?
早也花さん 木と木が近いと光合成ができないため、不健康な木の枝葉が伸びて藪化してしまいます。森が藪化してしまうと、山の獣たちも木のみができないので里に降りていきます。そうすると農作物への影響が出ます。また、木が密集しすぎていると、栄養がうまく行かず立ち枯れします。最終的には深く根が張らず、地盤がゆるくなり、雨で流れてしまうんです。
かずみ 森を守っていくことは海を守ることにつながると聞いたことがあります。「森が海につながっている」と感じる時はありますか?
総一郎さん 山の状態を良くすると、森の養分が川に流れ、海に流れていきます。森が枯れると森の養分がなくなるので、海・川の魚や動物、海そのものの状態にも影響が出ると思います。
早也花さん 群馬に海はありませんが、みなかみ町の大水上山は利根川の源流。そして、利根川が太平洋とつながっていますので、常に海のことを感じています。自然の一連の流れとして海、川の水が蒸発して、雨となり、山に降り注いで、また山を通って海や川に流れる。雨は嫌だな〜と思うこともあるけど、雨は恵みだなとも感じます。
日常の中で、自然との関わりを探して、見つけて、手にとってみてほしい
かずみ 現代社会はプラスチックに溢れています。まず私たちができることは、プラスチックではなく、日本の木材を身近にすることからだと思います。Liccaさんのエッセンシャルオイルのように、生活の中で木を感じられるものや場所、工夫を教えて下さい。
早也花さん 身近なところでいうと、割り箸じゃないかなと思います。すぐに捨てるのではなく、洗って使い続けてもいいですよね。もっと高級な割り箸があってもいいと思います。
近所の公園を散歩するだけでも「どんぐりが多いな」、「どんぐりの形って木によって違うんだな」と見る目を変えると、身近に感じてもらえると思います。秋の紅葉狩りも、実は木を学ぶ一つのツール。松ぼっくりはなんの木についているのか?どうやって育ったんだろう?と思って見てみると、楽しいですよ。
かずみ 間伐材を使った商品はキーホルダーやオブジェなどあまり普段から使いたいと思えるものが少ないなと感じているんですが、なにかおすすめはありますか?
総一郎さん 香川の「Bo Project. 」さんが高級感のあるお箸を作っていて、買いたいなと思いましたよ。すごい印象に残っています。
早也花さん プラスチック製品は手入れは楽だけど、個人的には良いものを長く使いたいと思っています。カトラリーを木にすると、お手入れが必要ですが、愛着が湧いてきます。私はアマニ油でお手入れをしています。木のカトラリーは、木の良さを引き出すお手入れ用のオイルを一緒に販売するなど、売る側も提案していかないと暮らしになじまないと思いますね。紙ストローも、結局プラスチックのほうが使いやすいと思われて、手に取られないことも多いですよね。環境にやさしいだけでなく、使い心地、楽しい、使って幸せというものも伝えていかないといけないなと思っています。
かずみ ありがとうございました。最後に、ウロコミュニティ会員のみなさんにメッセージをお願いします。
早也花さん 環境問題に触れることは、難しいと感じるときもあるけど、まずは自分たちが生活している町の自然を守りたい気持ちや、次の世代につなげたいという思いからつながっていきます。地域や自然を愛すべき場所と感じる人が増えることが、環境にやさしい人が増えることにつながるのかなと思います。普段の暮らしの中で、自然との関わりはきっとあります。ぜひ探して、見つけて、手にとってみてください。自然との接点を探してみることが日常の楽しみになりますよ。その一つのきっかけに、私たちのエッセンシャルオイルがなってくれたら嬉しいです。
自然や地域を愛することを暮らしに寄り添いながら感じられるものづくり。そんな熱い想いが、お二人の言葉から伝わってきました。
私たちの暮らしに身近な自然を守るための第一歩は、その現状を知ることから。公園など、近くの森林に触れてみたり、Liccaさんのエッセンシャルオイルを手にとってみたり、あなたらしい第一歩を見つけてみてくださいね。
暮らしの目からウロコでは、Liccaさんのエッセンシャルオイルを使ったアロマバームを作るワークショップを開催します。アロマバームを作りながら、日本の森林問題について一緒に考えてみませんか?イベントの詳細はイベントページをご覧ください!
Licca
長壁総一郎さん
製薬会社の営業として5年間勤務したのち青年海外協力隊へ参加。
2015年に東ティモールへ赴任しコミュニティヘルスケアの強化に従事。2018年に帰国後、タイの大学院へ進学し都市環境管理を専攻する。妻である早也花さんと話し合い、やりたいことが事業として実現できるような移住候補地を国内外から選定し検討する。結果、人・環境ともに最も魅力であったみなかみ町への移住を決める。2020年5月より事業開始し現在に至る。
長壁 早也花さん
2015年、青年海外協力隊に参加。ラオス南部にある児童館で子供たちに音楽や図工、日本語を教えたり、職員へのスキルアップ研修を開催したりするなどをして活動。ラオスの自然豊かな景色が好きで、帰国後に自然を活かす知識を付けるためにアロマテラピーインストラクターの資格を取得し、自然派化粧品ブランドに就職。より実践的に森の保全と利活用を行いたいと考え精油の製造販売事業を行う事を決意し、自然豊かなみなかみ町への移住を決める。
聞き手:城戸和美
暮らしの目からウロコ・わくわくクリエイター。神戸市北区で『住みびらきのお家 ケレケレ』を運営している。大学在学中のフィリピン留学をきっかけに環境問題に関心を持ち、現在は人々の暮らしを環境に優しいものに変化させたいと活動している。